板絵着色雲竜図(天井画)
(いたえちゃくしょくうんりゅうず<てんじょうが>)

台東区有形文化財〔絵画〕(平成11年度登載)
台東区東上野 下谷神社


 

雲竜図
雲竜図

 上野駅に程近い、大鳥居が印象的な下谷神社に、縦174センチ、横296センチの竜の天井画があります。作者は、日本近代画の巨匠、横山大観です。
 湧き立つ雲の中に突如として現れる竜を描いた水墨画で、迫力あふれる作品です。竜の体の輪郭は、強いタッチの墨線で表現され、筆先がかすれていることで猛々<たけだけ>しい竜の雄姿が一層際立っています。これに対して、渦巻き状の雲や竜のうろこは、淡い墨で描かれ、竜の後頭部から流れる雲や右腕及び左足の付け根、髭<ひげ>、眼、爪など細かいところに胡粉<ごふん>、金泥<きんでい>をまじえて比較的やわらかく仕上げています。
 画面左下に墨で「昭和甲戌之春 大観」と記され、「鉦鼓洞主<しょうこどうしゅ>」という印章があります。「昭和甲戌」は、昭和9年の干支をあらわしたもの、「鉦鼓洞主」とは、台東区池之端の横山大観邸における客間「鉦鼓洞」の主、つまり大観その人を指す画号です。
 横山大観(1868〜1958)は、東京美術学校第一期生として入学し、谷中における前・後期日本美術院の発展に尽力し、池之端の自宅(横山大観記念館として一般に公開。平成7年に台東区史跡に登載)で数多くの名作を生み出しました。昭和32年には、台東区名誉区民第1号の称号を贈られるなど、台東区にとって忘れてはならない人物です。
 下谷神社は、かつては下谷稲荷社といっていましたが、明治5年に神社名を「下谷神社」と改め、現在に至っています。関東大震災のときには、社殿がすべて焼け落ちてしまいましたが、昭和6年再建のための工事を起こし、同9年には完成しました。現在の建物はこの当時のものです。
 雲竜図は、このときの改築に際して、池之端茅町<かやちょう>(現、池之端一丁目)に住んでいた大観が、筆をふるったものです。制作に当たっては、下絵を作製し、それを天井に貼りながら、全体の調子を整えたといわれており、意欲的に描かれたことが知られます。
 大観は、この2年後に描いた「龍蛟躍四溟<りゅうこうしめいにおどる>」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)など、本図に似た竜図を多く手がけています。本図は、大観の描く典型的な竜の特徴を備え、代表作「生々流転<せいせいるてん>」(国立近代美術館蔵)などにもその片鱗は見受けられます。このことから、大観の竜図は、大正から昭和初期に確立したと考えられ、本天井画はその時期に当たっており、貴重な作例です。



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