俳書(はいしょ) 「蓮飯は」(はすめしは)

酒井抱一 筆(さかいほういつ ひつ)

台東区有形文化財〔書跡〕(平成13年度登載)

台東区根岸 永称寺


閏卯月のつこもりの日 永称寺にまねかれて

夜喰給りける時

                                            鶯邨

 蓮飯は これそ精舎の 菩薩かな

 

とある、酒井抱一自筆の俳書です。抱一の俳号「鶯邨{おうそん}」は、鶯の名所であった根岸にちなんだものです。

文政2年(1819)閏4月30日、根岸に住む抱一は永称寺に招かれて蓮飯を夜食に供されました。この俳書はこのときの一句を記したものです。蓮飯とは、蓮の若葉を細かく切ったものを入れて炊き、炊き上がったら別の大きな蓮の葉に包んで蒸らしたもので、蓮の葉に飯が盛られたさまを、蓮華座の上の菩薩に見立てています。

抱一は他にも食物に関した句を多く残しています。抱一の自筆句集『軽挙館句藻{けいきょかんくそう}』には、美食家抱一の一面をのぞかせる句が多数あります。

 河豚{ふぐ}喰うた日はふぐゝうた心かな

 素麺{そうめん}にわたせる箸や銀河{あまのがわ}

 初がつほ一句も出でぬうまみかな

など。いずれもたわいなく、秀句とは言いがたいですが、季節の料理に関心を持ち、洒落{しゃれ}心を感じさせる文化人の顔が見て取れます。

 また、同句集には抱一が永称寺にまねかれた際に詠んだ句もいくつか載っています。永称寺は抱一が出家剃髪した寺院、西本願寺系の宗派に属します。当時、区内には同派寺院は全部で4箇寺しかありませんでした。同じ根岸に位置したためでしょうか、抱一と永称寺の交流が深かったことがうかがえます。

本品は、寺院との交流や美食家だった抱一らしさをよく表したものであり、台東区の文化史を考える上で重要な史料です。
                                                     次のページへ

                                                    文化財メニューへ